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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)3567号 判決 1991年6月28日

原告 住友不動産株式会社

右代表者代表取締役 高城申一郎

右訴訟代理人弁護士 遠藤英毅

同 大谷庸二

被告 有限会社アーバングリーン

右代表者取締役 福田博司

右訴訟代理人弁護士 飯塚信夫

同 清水修

被告補助参加人 有限会社グリーンライフ

右代表者取締役 田中英雄

右訴訟代理人弁護士 呉服晃一

主文

一  原告が、別紙物件目録一記載の各土地につき別紙賃借権目録記載の各賃借権を有していること、別紙物件目録二記載の土地につき通行目的の使用借権を有していることを確認する。

二  訴訟費用中、原告と被告との間に生じた費用は被告の負担とし、参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文一項前段同旨

二1(主位的請求)

原告が、別紙物件目録二記載の土地につき通行目的の使用借権又は賃借権を有することを確認する。

2(予備的請求)

原告が、別紙物件目録二記載の土地につき囲繞地通行権を有することを確認する。

第二事案の概要

一  当事者双方の主張の要旨

1(原告の主張)

(一)  花島貴久子(以下「貴久子」という。)はもと港区虎ノ門三丁目二三六番一の土地(以下「分筆前の二三六番の一土地」という。)を所有し、これを一四人の賃借人(以下「前賃借人」という。)に賃貸していた。右土地の北東は公道、その余の隣接部分は他人の所有地であったため、その中央には道路が作られ、貴久子は公道に接していない土地の前賃借人らにこれを無償で使用させ(使用借権)、または賃貸していた。そうでないとしても、右貸借人らは囲繞地通行権を有していた。

(二)  貴久子は、右道路部分を分筆して本件二の土地とし、これを花島弘夫他三名の子(以下「弘夫ら」という。)に贈与した(以下、分筆前の二三六番一の土地から本件二の土地を除いた部分を「分筆後の二三六番一の土地」という。)。

(三)  原告は、これらの土地全体の上にビルを建てる計画を立て、貴久子及び弘夫らとの間に、(一) 原告は、前賃借人らから地上の家屋及び土地賃借権を買い取り、家屋を取り壊したうえ、原告のビルを建てること、(二) 原告が前賃借人等から賃借権の譲渡を受けてビルを建てるまでの間は、原告と貴久子及び弘夫らとの間には従前と同じ内容の賃借権及び使用借権が存続するものとすることを旨とする合意が成立した。

(四)  原告は、一四人の前賃借人のうち、一〇人(一部は相続等により名義変更)から分筆後の二三六番一の土地のうち本件一の土地の各賃借権の譲渡を受け、別紙賃借権目録記載のとおりの賃借権を取得し、これに伴い、本件二の土地につき、使用借権、賃借権または囲繞地通行権を取得した(なお、その後、分筆後の二三六番一の土地は同番一、三ないし六に分筆された。)。

ところが、被告は貴久子及び弘夫らから分筆後の二三六番の一の土地及び本件二の土地を買い受け、所有権移転登記をしたと主張して原告の右権利を争っている。

しかしながら、仮に被告が所有権を取得したとしても、被告は背信的悪意者であるから、原告の右権利を否定することはできない。

(五)  原告が前賃借人から譲り受けた賃借権のうちほとんどは被告の分筆後の二三六番の一の土地及び本件二の各土地の所有権移転登記後に賃借期限が到来したが、原告はその後も使用、占有を継続している。したがって、右賃借権は法定更新された。そうでないとしても、原告は貴久子及び弘夫らとの間に、原告がビルを建てるまでの間に賃借期限が満了した場合には、これを更新する旨の合意が予め成立しており、背信的悪意者である被告に対しては、右合意の効力を主張できる。

(六)  被告は法定更新に対し異議をいうが、被告は背信的悪意者であり、被告の異議は効力はない。

2(被告の主張)

被告は、前賃借人の本件一土地の賃借権及び本件二の土地の使用借権、賃借権または囲繞地通行権の存在、原告の右各権利の譲受け、被告が背信的悪意者であることを争い、抗弁として、原告と貴久子及び弘夫らとの間の合意は公序良俗違反で無効であること、原告と弘夫らとの間の合意は原告の意思表示により効力が生じるが、まだその意思表示がないこと、法定更新については、被告は異議を述べたこと、原告は本件一の土地と本件二の土地の境に塀を作り、本件二の土地を使用していないから、これに対する使用借権、賃借権または囲繞地通行権は消滅したことを主張している。

二  争いのない事実等

1  貴久子は、分筆前の二三六番一の土地を所有していた。

2  貴久子は、別紙賃借権目録符号AないしJ記載のとおり、同目録「原契約者」欄記載の各人に対し、同目録「借地対象」欄記載の土地部分を、同目録記載の約定で貸し渡して賃借権を設定し(以下「本件各賃借権」という。)、同目録「前賃借人」欄記載の各人(以下「前賃借人ら」という。)が本件各賃借権を有していた。なお、別紙賃借権目録A、B、F、Jの賃借権を除く本件各賃借権は、同目録「承継原因」欄記載のとおり前賃借人に承継された。

3  本件一土地の形状は、別紙図面のとおりである。右図面によれば、本件一土地のうち、同図面(い)、(ろ)、(は)、(ぬ)の各土地は北東の公道に直接面しているが、その余の(に)、(ほ)、(へ)、(と)、(ち)、(り)の各土地はいずれも公道に接しておらず、右公道に接していない部分の前賃借人らが右公道に出るには、南西奥地から北東表まで通ずるように敷設された通路(本件二の土地)上を通行しなければ不可能な状況にあった。

前賃借人らのうち別紙賃借権目録記載の山辺清子、片山俊男、渡辺行庸及び千野邦夫を除く六名の前賃借人らは、右各賃借権取得以来、一貫して本件二土地を、公道に出る通路(当初から通路の位置形状に変わりはない。)として一貫して継続使用しており、また、当時の所有者であった貴久子も、同土地を通路として残し、これを前借地人らのために、公道に通ずる通路として無償で使用させていた。

4  貴久子は、昭和五八年一一月二九日、分筆前の二三六番一の土地より本件二の土地を分筆のうえ、これを弘夫らに贈与し、所有権移転登記をした。

5  原告は、分筆後の二三六番一の土地上の賃借権を前賃借人から譲受け、同土地及び本件二の土地上にビルを建築する計画を立て、貴久子及び弘夫らに対し、堅固建物所有を目的とする期間六〇年の賃借権設定を申し入れた。そして、原告、貴久子間において、昭和五九年一月一八日、協定書(以下「本件第一協定書」という。)が取り交わされた。右協定書中には、大略左記の内容の約定の記載がされている(協定書の内容については争いがなく、その余の事実については証人秋山)。

(一) 貴久子と原告は、分筆後の二三六番一の土地につき以下の内容の賃貸借契約を締結することを予約する(第一条、第二条、第七条1項、第八条)。

(1) 目的 堅固建物(ビル)所有

(2) 存続期間 原告が右堅固建物の建築工事に着手したときから六〇年

(3) 賃料 三・三平方メートル当たり年六万七〇〇〇円と各年の固定資産税・都市計画税の合計額

(二) 貴久子は、原告が前賃借人らから本件各賃借権を譲り受けることを承諾する。原告がビルを建てるまでの間に、本件賃借権の期限が到来したときは、合意更新する。

(三) 原告は、前賃借人らから本件各賃借権を譲り受け、かつ、その土地上に右堅固建物の建築工事に着手するまでの間、貴久子に対し、従前の賃料を、従前の方法によって支払う(第八条3項、第九条3項)。

また、弘夫らと原告間においては、前同日、協定書(以下「本件第二協定書」という。)が取り交わされた。右協定書中には、大略左記の内容の約定の記載がされている。

弘夫らと原告は、本件二の土地につき以下の内容の賃貸借契約を締結することを予約する(第一条、第二条、第三条、第四条)。

① 目的 堅固建物(ビル)所有

② 存続期間 原告が右堅固建物の建築工事に着手したときから六〇年

③ 賃料 三・三平方メートル当たり年三〇万一〇〇〇円

6  原告は、昭和五九年二月ころから昭和六二年七月までの間に、別紙賃借権買取表記載のとおり、前賃借人らから建物及び本件各賃借権を順次買い受け、建物については、同表「所有権移転登記」欄記載のとおり、原告名義の所有権移転登記をして、引渡を受けた。石田次男から譲受けた賃借権は昭和六一年八月ころ合意更新された。

原告は、同表「建物取壊日」欄記載の各期日に、同表a、b、dないしhの各建物を取り壊し、その余の公道に面して所在する同表c、i、jの建物は残置し、建物を取り壊した土地の外側に塀等を張り巡らした。同表d、e、f、hの建物については、同表「滅失登記日」欄記載のとおり、原告自ら滅失登記を申請し、滅失登記がなされた。

7(確認の利益)

(一) 昭和六二年一一月二八日、有限会社アーバングリーン(被告補助参加人、もと本店所在地東京都新宿区歌舞伎町二丁目四二番一三号、現在は商号変更をして本店所在地東京都港区赤坂二丁目八番五号、以下「新宿アーバン」という。)は、貴久子及び弘夫らとの間に分筆後の二三六番一の土地及び本件二の土地の売買契約を締結し、同年一二月三日、貴久子及び弘夫らから被告への、それぞれ真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がされた。

(二) 被告は、その所有者であると主張して原告が本件一の土地につき本件各賃借権を有すること、本件二の土地につき、使用借権、賃借権あるいは囲繞地通行権を有することを否認している。

三  主たる争点

1  原告は、本件二の土地上に通行権を取得したか。また、有しているとしてその法的性質は使用借権か、賃借権か、囲繞地通行権か。

2  貴久子と原告との間の本件第一協定書は公序良俗違反で無効であるか。

3  被告は背信的悪意者であるか。

4  原告が本件一の土地と本件二の土地との間に塀を設置したことにより、本件二の土地の使用借権は消滅したか。

5  原告の本件一の土地の使用継続に対する被告の異議は有効か。

第三争点に対する判断

一  争点1について

前記第二の二の3、4のような本件一土地の形状、前賃借人らの本件二土地の使用状況、貴久子は本件二の土地を通路として設定し、前賃借人らに無償で使用させていたこと等の事実を総合勘案すると、貴久子は、別紙賃借権目録「契約者」欄記載の各人(同目録A山辺清子、同B片山俊男、同C渡辺行庸、同J千野邦夫を除く。)に対し本件各賃借権を設定した際、右各人らに対して、同人らの有する本件一の土地の賃借権に付随する権利として、本件二の土地につき公道に通ずる通路として通行を目的とする使用借権を設定し、その後貴久子から本件二の土地の贈与を受けた弘夫らも、これを承認してその債務を承継したものと解するのが相当である。

《証拠省略》によれば、本件第二協定書が作成された際、原告が本件二の土地を敷地としてビルを建築するときは原告と弘夫らとの間に改めて賃貸借契約を締結するが、それまでの間は、従来前賃借人に使用借権を認めてきたのと同様に、原告に使用借権を認める旨の合意がなされた。

被告は本件第二協定書は原告の意思表示により発効するが、まだ原告の意思表示はない旨主張する。これは、同協定書一一条の規定をいうものと解されるが、同条は本件二の土地を原告のビルの敷地として使用する必要が生じた場合には、原告の意思表示により予約された賃料、期間、目的の賃貸借が成立するという趣旨にすぎず、ビル着工までの原告の使用借権に関する合意とは関係がない。

したがって、原告は、前賃借権者らから本件各賃借権を譲り受けたことによって、右借地利用に付随した通行を目的とする使用借権を有する。

二  争点2について

1  被告は、本件第一協定書によれば、「原告は、本件一の土地の土地上に堅固な建物を建築するための対価は支払わない。貴久子は、原告が前賃借人らから賃借権の譲渡を受けても、名義変更料、承諾料を請求しない。原告は、約定の賃借権の買収期限までに予定の買収ができないときは、期限を延長でき、その場合に貴久子は損害賠償を請求しない。原告は、本件一の土地上に建設したビルを三年以内に第三者に譲渡でき、その場合には貴久子は名義変更料、承諾料を請求しない。」旨の合意がなされているが、右は貴久子にとって一方的に不利益なものであり、公序良俗違反であるという。

2  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

貴久子は、堅固の建物建築に使用目的を変更するための一時金または原告が前賃借人から賃借権の譲渡を受けるに際し、名義変更料、承諾料等の一時金をもらわない代わりに、新しくビルを建てた際の賃料を高額にすることを提案し、原告はこれを了承し、後者を通常の賃料の倍額とした。

これは、名義変更料、承諾料などの一時金が支払われた場合には、そのほとんどに税金がかかり、手取りは少ない(証人秋山の試算によれば、例えば、名義変更料、承諾料約二億四〇〇〇万円位に対し、税金が約二億円かかる。)ので、むしろ、新しい賃料を高額にした方が貴久子にとって有利であったためである。

原告が旧賃借権の買収の期間を延長しても、貴久子は損害賠償を請求しないとされたのは、原告のビル新築計画のリスクが大きく、また、原告としてもできるだけ早くビルを建てる必要があったので、延長期間もさほど長期とは考えられなかったためである。

また、原告は、止むを得ない事情があれば、建設したビルを第三者に譲渡でき、これが三年以内に行われた場合には、貴久子は名義変更料、承諾料を請求しないとの合意はあるが、三年以内の譲渡は、原告の関連会社への譲渡を前提としたものであった。

3  以上の事実が認められるところ、右の事情のもとでは本件第一協定書が貴久子にとって一方的に不利であり、公序良俗に違反するものとはいえない。

三  争点3について

まず、対抗要件としての登記した建物が残っている別紙賃借権目録(は)、(り)、(ぬ)の土地について仮に被告がその所有者となったとしても原告が被告に対してその賃借権を対抗できることには問題がない。そこで、次にその他の建物が取り壊されている土地について原告が被告に対して建物なしに賃借権を対抗することができるか否かが問題となる。

当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

1  原告は、前賃借人らから譲受けた賃借権について昭和六二年七月分までの賃料を貴久子方に持参して支払い、その都度、貴久子に対して本件各賃借権の譲り受け状況につき逐一報告していた。また、原告は、昭和六二年四月ころ、貴久子から本件賃借権の賃料の値上要請を受け、交渉を続けるなどもしていた。

2  原告は、昭和六〇年一二月末までに分筆後の二三六番一の土地全部の賃借権の譲受けを完了することができなかったため、本件第一協定書中の約定により買収期限を昭和六一年一二月末まで延長し、貴久子にその旨告げた。しかし、昭和六一年一二月末になっても右土地のうち本件二の土地の西北部分全部の賃借権譲受けの話がまとまらなかったので、原告は、本件協定書中の約定により、まず、第一次的に、賃借権譲渡の完了した本件一の土地のうち本件二の土地の北東部分にビル一棟(「(仮称)住友神谷町ビル」)を建設し(開発面積五三九・〇六平方メートル(一六〇・〇六坪)、地上九階建鉄骨コンクリート造、着工昭和六二年三月一日、昭和六三年四月末竣工予定)、同ビル完成後もしくは着工後に西北部分上に別途ビル一棟を建築する旨の変更計画をたて、第一次施行の「(仮称)住友神谷町ビル」概略設計計画書を作成した。

ところが、「(仮称)住友神谷町ビル」着工予定時直前の昭和六二年二月末に至って、西北部分の賃借権譲受けの交渉に進展がみられたので、急遽原告は、同ビルの着工を一年延期し、その間、買収を完了させたうえ、本件第一協定書の前記第二5(一)の約定に基づき、当初の予定どおり分筆後の二三六番一の土地及び本件二の土地全体上にビル一棟を建設することとし、昭和六二年四月ころ、右ビルの設計施行者として予定されていた株式会社熊谷組との間で本件一の土地の管理委託契約を締結した。

3  原告は、昭和六二年八月ころ、別紙図面(い)、(ろ)部分の公道に接した部分及び同図面(に)、(ほ)部分の本件二の土地に接した部分に高さ約二メートルのカラー鉄板製の囲いを設置し、右公道側に設置されたカラー鉄板表面の幅一杯に「管理者熊谷組」と表記した(なお、前記取り壊し対象から除外された公道面に面した別紙図面(は)、(ぬ)上の各建物は残置されたままの状態であり、同図面(ち)、(へ)、(と)部分の本件二の土地に接した部分には、前述木製の柵が設置されたままの状態であった。)。

さらに、原告は、昭和六二年一一月一四日には、右設置されたカラー鉄板表面の前記表記に加えて「ビル建設予定地」とも表記した。

4  売主名義人・貴久子及び弘夫ら、買主名義人、新宿アーバンとの間で、昭和六二年一一月二八日付けで、分筆後の二三六番一の土地及び本件二の土地を代金一八億円で売り渡す旨の記載がされている売買契約書と題する書面が取り交わされた。

次いで、昭和六二年一二月三日受付で、分筆後の二三六番一の土地につき、貴久子から被告へ、本件二土地につき弘夫らから被告へ、いずれも真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がされた。

なお、昭和六二年一二月二日付けで港区長あて提出された「土地売買等届出書」には、届出対象とされる本件一の土地を含む分筆後の二三六番一の土地には原告の賃借権が設定されている旨の記載がある。

5  被告は、いずれも昭和六三年一月二七日付けの建物滅失登記申出書三通を東京法務局港出張所に提出し、登記官に対して、別紙賃借権買取表a、b、g記載の建物が既に解体され、現存しないことを申告し、職権による右各建物の滅失登記を申し出た。そのころ、登記官によって、右各建物の滅失登記が了された。

そして、右各建物滅失登記申出書に添付された建物現地調査書の「立会人」欄には「港区赤坂二―八―一五株式会社アーバングリーン田中英一」と記載されている。

6(一)  当時被告及び新宿アーバンはいずれも登記上、宇田川敏夫(以下「宇田川」という。)が取締役に就任しているが、それは名目上のものであり、経営の実権は、両会社のオーナーと称される田中英雄(通称田中英一、以下「田中」という。)が完全掌握し、両会社の経営は田中の意思により動かされていたのであり、宇田川も田中の指示に基づいて業務執行等をしていたにすぎない。そして、両会社の営業の本拠地も、田中の個人の住所地である東京都港区赤坂二丁目八番一五号とされていた。

(二) そして、本件一、二土地に関する、貴久子及び弘夫らとの間の両会社の取引は、終始一切田中が関与して行ったもので、取締役宇田川は全く関与していなかった。

田中は、原告が本件第一及び第二協定書に基づき昭和五九年初めころから分筆後の二三六番一の土地の賃借権の買受けを開始したこと、右賃借権譲受後は本件一の土地上の一〇筆の各建物の登記簿上の所有名義が前賃借人らから原告に対して移転されたこと、そのうち七筆の建物は取り壊されたこと、原告がビルを建築するまでの間は、本件一の土地の賃借権及び本件二の土地の使用借権は従前どおり貴久子及び弘夫らとの間に存続していること、原告が前賃借人らから譲り受けた賃借権の従前賃料として昭和六二年七月分までを貴久子に対して支払っていたことを知っていた。当時分筆後の二三六番一の土地及び本件二の土地の更地面積は約七五億円(田中の供述によっても四〇ないし五〇億円以上)であったが、その大部分を占める土地の賃借権が原告により買収され、建物が取り壊されていたため、田中は新宿アーバン又は被告が右土地を取得し、原告の本件賃借権を否定すれば莫大な利益を手にすることができると考え、前記のとおり新宿アーバンが一八億円でこれを買い受ける旨の売買契約を締結し、その後被告に所有権移転登記がなされた。

ところで、《証拠省略》によれば、貴久子及び弘夫らは、被告の所有権移転取得を争い、被告に対し登記抹消請求の訴えを提起している(東京地方裁判所昭和六三年(ワ)第一一七九号)が、仮に被告の所有権が認められるとした場合においても、右のような事情、目的でなされた新宿アーバン及び被告の行為は、もはや自由競争の範囲内にある正当な取引行為として是認することはできず、対抗要件の欠缺を主張するについて正当な利益を有するとはいえない。したがって、対抗要件としての登記した建物が残存しない土地についての原告の各賃借権は被告に対して対抗しうる。

また、使用借権としての通行権についても、被告は、本件二土地につきその形状や前賃借人による利用状況を知り、かつ前記のような悪意でこれを取得していることからして、右通行権を否認することは信義則上許されず、原告は被告に対して使用貸借契約に基づく通行権を主張することができる。

四  争点4について

原告は、別紙図面(に)、(ほ)、(へ)、(と)と表示された土地上の建物を取り壊した後、右各土地と本件二の土地との間に鉄板で囲いをしたことは認められるが、これは右土地を管理するためであり、本件二の土地に対する使用借権を放棄した趣旨でないことは明らかである。

五  争点5について

原告が前賃借人らから承継した本件各賃借権の各契約期限は、別紙賃借権目録記載のとおりであり、原告は本件一の土地のうち右期限が到来した部分についても継続使用していること、被告がこれに対し異議を述べていることは当事者間に争いはないが、被告あるいは新宿アーバンは、前記認定のような事情、目的のもとにあえて貴久子との間で分筆後の二三六番一の土地の売買契約を締結したのであるから、仮に被告がその所有権を取得したとするも今になって法定更新に対する異議を主張し、原告の賃借権の存続を否定することは信義則に照らして許されるものではない。

したがって、原告の本件各賃借権は、別紙賃借権目録記載のとおりの更新期限まで存続し、これに付随する本件二の土地の使用借権も同様に存続するものと解される。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 古田浩 細野敦)

<以下省略>

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